気負わず、ぶれず、まっすぐに<前編>
いまから約3ヶ月前の11月中旬。高知県・安芸市で行われていた秋季キャンプがあと数日で終わろうかという日のことだった。グラウンドでの打撃練習中、矢野燿大新監督から声が掛かる——。
それは、想像もしていない言葉だった。
『来年からキャプテンだから、よろしくな』
糸原健斗、背番号33。いまさら言うまでもないが、昨年、個人としてはチームで唯一となる全試合出場という勲章を得た男だ。まだ今年がプロ3年目ではあるが、大学・社会人を経てのプロ入りのため、年齢は今年で27歳になる。若手からベテランまで、さまざまな年代が揃うチームの中では、ちょうど中間あたりの年齢だろう。チームとして結果を残せなかった昨年の戦いを終え、悔しさ残る中で一心不乱に鍛錬の日々を過ごしていた矢先…さらなる飛躍が望まれる3年目に、キャプテンという大役をも担うこととなったのだ。
「正直、想像していなかったですし、驚きました。ただ、驚きすぎて断る余裕もなかったという感じでした」
自身としては実に小学生以来というチームの“顔”となる。
変わったことをやるつもりはない。糸原は言う。
「キャプテンになったからといって、特別なにかをしようとは思っていません。自分は“キャプテン”になりますけど、“レギュラー”ではないですから。去年は去年で、今年は今年。またイチからのスタートだと思って、まずはレギュラーで今年一年戦うことを目標にしてやっていくだけです」
過度に意識することはない。まずは自分のプレーをしていくなかで、色を出していくつもりだ。
昨季までは福留孝介がキャプテンを務めた。輝かしき実績を誇るベテランの姿を一選手として見て、学んだものは数えきれぬほどあると話す。
「当たり前のことかもしれないですけど、凡打ひとつでも全力で走るとか、プレーのひとつひとつがすごいと思える人です。また、背中で引っ張りながらも、ときにはバシッと声でチームを締めるというのもありました」
これまでの2年間で見てきた頼もしい背中を頭に浮かべながら、自らもステップアップを目指す。
なにもわからずプロの世界に飛び込んだ1年目。1年目の課題を克服し、飛躍を遂げた2年目。本来であれば、少しは余裕を持って臨めるはずの3年目。そこに待ち受けていたキャプテンという重責。客観的には困難な道に見えるが、糸原はブレない。まずは、自分。その信念を持ちながらまっすぐ前を見据えている。
気負わず、ぶれず、まっすぐにショートver<前編>終了。
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